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福岡地方裁判所 昭和34年(ワ)341号 判決

原告

右代表者法務大臣

井野碩哉

右指定代理人法務事官

林正治

大蔵事務官 丸田正毅

福岡市飛石町一一六番地の四

被告

中西孝

右当事者間の昭和三十四年(ワ)第三四一号敷金返還請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告は原告に対し金十七万参百二十六円及び内金九万七千六百二十円に対する昭和三十三年十一月三十日より完済まで日歩三銭の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「主文第一、二項同旨」の判決を求め、その請求の原因として、

「一、訴外高吉実は昭和三十三年四月二十三日現在別表第一のとおり国税(附帯税を含む)金十八万五千百四十四円及び滞納処分費九十五円合計金十八万五千二百三十九円を滞納していた。

二、ところで右訴外人は昭和三十二年十一月三十日福岡市西新町七九六番地の八所在被告所有にかかる店舗の賃借を受けるに際し契約に基いて被告に対し昭和三十三年四月二十三日現在敷金として金四十万円を預けていた。

三、右訴外人は右国税の納期を過ぎ督促されながらその指定期限までに完納しないので福岡税務署収税官吏は昭和三十三年四月二十三日国税徴収法第十条及び第二十三条の一に基き賃貸借契約の終了の際の敷金返還請求権を差押え、同日その旨を被告に通知した。

四、その後訴外高吉は昭和三十三年五月二十八日に金一万円、同年六月十日に金一万千百十円合計金二万千百十円を納付したので昭和三十一年分所得税(納期昭和三十二年三月十五日のもの)の本税に充当した。

五、訴外高吉は昭和三十三年九月二十五日賃貸借契約を解除して第二項記載の店舗を被告に引渡したので敷金返還の請求ができることとなつた。よつて福岡税務署収税官吏は国税徴収法第二十三条の一により昭和三十三年十一月二十九日被告に対し同年十二月七日までに納付するよう告知した。訴外高吉の昭和三十三年十一月二十九日現在における滞納税額は別表第二のとおり国税(附滞税とも)金十七万二百三十一円、滞納処分費金九十五円合計十七万三百二十六円である。

六、しかるに被告は原告の督促にもかかわらず現在までその支払いをなさず、又訴外高吉も第四項記載の内入後滞納税金の納付をしない。

よつて国税徴収法第二十三条の一により本訴の請求に及んだ」と述べ

証拠として甲第一号証ないし甲第九号証を提出し、乙第一号証の成立を認めた。

被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、

答弁として

「原告主張の原告と訴外高吉実との債権、債務の関係はすべて知らない。被告が原告主張の家屋を昭和二十九年四月頃から昭和三十四年四月一日まで所有していたことは認めるが、被告はこれを原告主張の日時訴外高吉に賃貸したことはないしまた同訴外人より敷金四十万円を預つたことはない」と述べ

証拠として乙第一号証を提出し、証人高吉実の証言を援用し、甲第一号証ないし甲第九号証の各成立を認めた。

当裁判所は職権を以て被告本人尋問をした。

理由

成立に争いのない甲第一号証ないし甲第九号証、証人高吉実の証言及び被告本人尋問の結果(但右証言及び本人尋問の結果中後記措信しない部分は除く)を綜合すると原告主張の事実はすべてこれを認めることができる。

尤も証人高吉実の証言及び被告本人尋問の結果中には被告は本件家屋を訴外高吉実に賃貸し、同人より敷金を受取つたのではなく同訴外人の妻高吉エキに対し賃貸したものであり、本件敷金もまた高吉エキより差入れられたものである。」とする趣旨の部分があり成立に争いのない第一号証(昭和三十三年一月八日作成公正証書)においても本件家屋の借主は高吉エキで高吉実はその連帯保証人となつている。

しかしながら「訴外高吉実の本件滞納税金は昭和二十七年より同三十二年度の分でその納期限、督促状指定期限はその間既に順次到来済であつたことや、同人名義の昭和三十二年分所得税青色申告の事情ならびに同人の営業状態同人と被告との知已関係の実情、本件家屋賃貸借の締結明渡について同人及び被告が証言、供述している趣旨等」仔細に前掲した各証拠を検討すると前記被告に有利な証言ならびに本人の供述部分をそのまま直に措信することができず、却つて「訴外高吉実は昭和三十二年十一月本件家屋を被告から賃借する頃既に銀行、問屋等における信用を全く失い、その茶舗営業も行詰つていたので以後取引には妻高吉エキの名義を用いることとしたが、それは単なる形式にすぎず営業の実質は夫たる高吉実に属していた。

一方本件家屋賃貸借について当事者で公正証書を作成するなどしていなかつたのであるが金五十万円の敷金も差入れられており、高吉実は債権者からの追求を免れるべく昭和三十三年一月八日に至り被告との間で本件家屋の賃借人を高吉エキとし、高吉実はその連帯保証人として家屋及び動産賃貸借契約公正証書(乙第一号証)を作成するに至つたもので、勿論これまた当事者間で仮装したものに過ぎない。」と推認することができる。

以上述べたところからして被告が昭和三十三年八月高吉実に対し敷金を返還したとしてもそれは差押の効力として原告に対抗することはできず、被告は原告に対し金十七万三百二十六円及びその内金九万七千六百二十円(本税)に対する催告期後である昭和三十三年十一月三十日から完済まで日歩三銭の割合による利子税相当額(国税徴収法第二十三条の一第二項により請求できると解する)を支払うべき義務あるもので原告の本訴請求は理由があり認容すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 山口定男)

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